昨今、多くの企業が経理業務の効率化を目指して、AIやOCR(光学文字認識)を導入し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。特に、AIを活用した自動仕訳やOCRによる経費精算の効率化が注目されていますが、実際にはすべてのDX施策が成功するわけではありません。この記事では、AIやOCR導入における落とし穴について、私自身の経験を基に解説します。
問題点1:AIが仕訳を覚えない
多くのクラウド会計ソフトには、自動で仕訳を提案する機能が搭載されています。仕訳を一度覚えさせると、比較的正確に処理されることが一般的です。
しかし、OCR機能が関わると話は別です。OCRが正確に文字を読み取らないため、AIが仕訳を正確に学習できないことがあります。
クラウド会計などの経費精算システムでは、OCRで予測はするものの、仕訳入力自体は手動で行う(選択肢から選ぶ)ため、予測精度が低くても大きな問題にはなりません。
しかし、私が試験導入した「ScanSnapスキャンからの仕訳AI」では、経費精算において「ガソリン代」を「燃料費」と「軽油税」に分けるといった基本的な仕訳でさえ、AIが正確に学習しませんでした。
例えば、経費精算システムを利用する場合、登録者が「ガソリン代」を選んで領収書をスキャンすると、システム側が自動で「燃料費」と「軽油税」に分けた仕訳を生成してくれます。しかし、「ScanSnapスキャンからの仕訳AI」では、領収書を正確に読み取ることができず、「交際費」などの不適切な勘定科目が提案されてしまいます。その結果、提案された仕訳を修正し、複合仕訳を手動で入力する羽目になり、導入前よりも手間がかかる結果となりました。
問題点2:OCRの精度が低い
OCR機能もまた、期待外れだった部分の一つです。OCRは領収書や請求書の内容を自動で読み取って仕訳に変換することを目的としていますが、その精度にはバラつきがあります。精度の低いOCRツールを選定してしまうと、誤認識が頻繁に発生します。
例えば、金額を「1,000円」と認識すべきところを「10,000円」と誤認識したり、日付が逆さに読み取られることがありました。このような誤認識を手作業で修正する手間が増え、最終的には「手入力の方が速い」と感じる結果に繋がりました。
ただし、OCR機能には性能差があり、私が使用した中では、バクラクのOCRは高精度で非常に有用でした。高額ではありますが、業務にも十分に活用できるレベルでした。このように、OCRの精度は提供する企業によって大きく異なるため、ツールの選定には慎重を期する必要があります。
問題点3:入力スピード<読み取り時間
また、現場での慣習によって、レシートがホチキスで留められていることがよくあります。そのため、レシートを一枚ずつホチキスから外し、ScanSnapで読み込ませる作業に時間がかかり、その後の仕訳入力も手間が増えてしまいました。この手間を考慮すると、結局手入力で仕訳を入力する方が早く、効率的であることがわかりました。DX化を進めても、作業の手間が増えるのであれば、その効果は薄れてしまいます。
DX化を進めるには慎重な見極めが重要
高額な初期投資をしてAIやOCR機能を導入しても、その機能が不完全であれば、その後の維持費やサポート費用が無駄になる可能性があります。本来、コスト削減を目指して導入したDX化が、逆にコストを増加させる結果になってしまうのです。
AIやOCR技術は確かに業務効率化に役立つ可能性がありますが、すべての業務に適しているわけではありません。また、導入するツールの性能差も大きいため、慎重に選定し、自社の業務に適したツールを試験導入することが重要です。もし、ツールが業務にマッチしなければ、無理に導入を進めるべきではありません。
まとめ:自社業務に合ったツールを見極めて導入しよう
AIやOCRの導入は業務効率化に有効な場合がありますが、ツールの性能差を見極めることが非常に重要です。低コストで高機能なAIやOCRの導入が期待される一方で、現時点では試験導入を行い、自社業務に最適かどうかを確認することが不可欠です。導入前に業務の実態を把握し、本当に必要なツールかどうかを慎重に見極めてから、効果的なDX化を進めましょう。
DX化を成功させるためには、ツール選定が重要であり、また、業務の状況によっては無理に導入しない選択も必要です。状況に応じて効果的なDX化を進めていきましょう。
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